相続・家族信託

認知症で親の口座が凍結される前にやるべきこと【家族信託入門】

「親が認知症になったら、実家や預金はどうなるの?」——。

実は、親が認知症と診断されると、銀行口座が凍結されて預金を引き出せなくなったり、実家を売却できなくなったりするリスクがあります。これを「資産凍結」といい、相続対策として今注目されているのが「家族信託」です。

「うちの親はまだ元気だから大丈夫」と思っていると、手遅れになることがあります。家族信託は「親が元気なうちしか」手続きできません。認知症になってからでは遅いのです。

このページでは、認知症による資産凍結のリスクと、その対策としての家族信託の仕組みをわかりやすく解説します。

1. 認知症になると資産はどうなる?

日本では高齢化が進み、65歳以上の約5人に1人が認知症または軽度認知障害と言われています。他人事ではありません。

親が認知症になった場合、財産の管理や不動産の売却に大きな支障が出ることがあります。具体的には以下のような問題が起きます。

  • 銀行口座が凍結され、預金を引き出せなくなる
  • 実家などの不動産を売却できなくなる
  • 介護施設の費用を親の資産から払えなくなる
  • 相続対策(生前贈与など)ができなくなる
  • 子どもが親の代わりに財産を動かすと使い込みと疑われるリスクがある

「親の通帳を預かっているから大丈夫」と思っている方も要注意です。銀行口座は名義人本人しか操作できず、家族であっても勝手に引き出すことは法的には認められていません。

2. 資産凍結とは何か

資産凍結とは、本人が認知症などで判断能力を失った場合に、本人の財産が自由に動かせなくなる状態のことです。

銀行口座の凍結

銀行は口座名義人が認知症と判断すると、本人保護のために口座を凍結することがあります。窓口での本人確認の際に様子がおかしいと判断されたり、家族から相談があった場合に凍結されるケースがあります。凍結されると、家族であっても預金の引き出しや振り込みができなくなります。

<実際にあった例>
介護施設の月20万円の費用を親の口座から払おうとしたが、銀行口座が凍結されていて引き出せず、子どもが立替払いを続けることになった。

不動産の売却不可

不動産の売買契約は本人の判断能力が必要です。認知症で判断能力がないと判断された場合、不動産を売却することができません。

<実際にあった例>
老人ホームの費用のために実家を売却しようとしたが、親がすでに認知症で契約能力がなく、売却できない状態になった。結果として子どもが数百万円を立て替えることになった。

3. 家族信託とは?仕組みをわかりやすく解説

家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託す制度です。

例えば「父親が元気なうちに、実家と預金の管理を長男に託す」という契約を結んでおくと、父親が認知症になっても長男が財産を管理・売却できるようになります。

家族信託の基本的な仕組み

登場人物:

  • 委託者:財産を託す人(例:父親)
  • 受託者:財産を管理する人(例:長男)
  • 受益者:財産から利益を受ける人(例:父親本人)

この3者の関係がポイントです。父親が受益者のままなので、長男が財産を自由に使えるわけではなく、あくまで「父親のために」財産を管理します。

流れ:

  1. 父親(委託者)と長男(受託者)が家族信託契約を締結する
  2. 対象財産(実家・預金など)を信託財産として移転する
  3. 父親が認知症になった後も長男が財産を管理・運用できる
  4. 実家の売却が必要になっても長男名義で手続きができる
  5. 父親が亡くなった後の財産の行方も契約で決めておける

4. 家族信託のメリット・デメリット

メリット

認知症後も財産を自由に動かせる
家族信託を結んでおけば、親が認知症になっても子どもが財産を管理・売却できます。介護費用の支払いや実家の売却がスムーズに行えます。

柔軟な財産管理ができる
成年後見制度と違い、財産の運用・処分に裁判所の許可が不要です。株の売買や不動産の建替えなど、積極的な財産活用もできます。

二次相続まで設計できる
「父が亡くなったら母へ、母が亡くなったら子どもへ」という二世代にわたる財産の承継を事前に設計できます。これは遺言では実現できない仕組みです。

家族だけで完結できる
成年後見制度のように裁判所や弁護士が関与する必要がなく、家族の意思で財産を管理できます。

デメリット

親が元気なうちしか手続きできない
認知症になった後では家族信託の契約はできません。「そのうちやろう」と思っているうちに手遅れになるリスクがあります。

費用がかかる
専門家(弁護士・司法書士・行政書士)への報酬が必要です(後述)。

税務が複雑になる場合がある
家族信託は税務上の取り扱いが複雑なため、税理士への相談も必要です。

すべての財産に対応できるわけではない
農地や一部の財産は家族信託の対象外になる場合があります。また、年金受給権なども信託財産にはできません。

5. 家族信託にかかる費用

費用の種類目安
専門家への報酬(契約書作成等)30〜100万円程度
公正証書作成費用(公証人手数料)数万円程度
不動産登記費用(登録免許税)固定資産税評価額×0.3〜0.4%
司法書士報酬(登記)5〜10万円程度
信託口口座の開設費用銀行によって異なる

費用はかかりますが、資産凍結によって実家が売れなくなるリスク、毎月かかる後見人報酬(月2〜6万円)と比べると、費用対効果は高いと言えます。

6. 成年後見制度との違い

家族信託成年後見制度(法定後見)
手続きのタイミング認知症になる前(元気なうち)認知症になってからでも可
財産管理の自由度高い(裁判所の許可不要)低い(積極的な活用は難しい)
裁判所の関与少ない強い(後見人を裁判所が選任)
費用初期費用30〜100万円のみ後見人報酬が毎月2〜6万円
向いているケース将来の財産管理を設計したいすでに認知症が進んでいる場合

親がまだ元気なうちに対策をするなら家族信託、すでに認知症が進んでいる場合は成年後見制度が現実的な選択肢です。

7. 家族信託を始めるステップ

  1. 家族で話し合う:誰が受託者になるか、どの財産を信託するかを決める
  2. 専門家に相談する:家族信託に詳しい弁護士・司法書士・行政書士に相談する
  3. 信託契約書を作成する:専門家が契約書を作成し、公正証書として作成する
  4. 信託口口座を開設する:信託専用の銀行口座を開設する
  5. 不動産の登記変更(不動産がある場合):法務局で信託登記を行う

8. よくある質問

Q. 家族信託は子どもが一人でも組めますか?

はい、組めます。受託者(財産を管理する人)は一人でも構いません。ただし、受託者に万一のことがあった場合の「後継受託者」も決めておくことをおすすめします。

Q. 親が軽度の認知症ですが、まだ家族信託はできますか?

軽度の認知症であれば、判断能力が残っていると判断される場合は契約できることがあります。ただし判断が難しいため、早急に専門家に相談することをおすすめします。時間が経つほど難しくなります。

Q. 家族信託をすると親の財産を子どもが自由に使えるようになりますか?

いいえ。受託者(子ども)は「受益者(親)のために」財産を管理する義務があります。私的流用は法律違反になります。家族信託はあくまで親の財産を親のために管理する制度です。

Q. 家族信託と遺言書はどちらがよいですか?

目的が異なります。遺言書は「死後の財産の分け方」を決めるもの、家族信託は「生前の財産管理」を行うものです。両方を組み合わせるのが理想的です。

Q. 家族信託をしていれば相続税はかかりませんか?

家族信託は相続税の節税を目的とした制度ではありません。相続税は信託財産にも課税されます。相続税対策については税理士に相談しましょう。

9. まとめ:早めの対策が肝心

認知症による資産凍結は、突然やってきます。「親がまだ元気だから大丈夫」と思っているうちに手遅れになるケースが多いのが現実です。

チェックリスト:

  • □ 親の財産(不動産・預金)を把握している
  • □ 相続登記が済んでいる
  • □ 親が認知症になった場合の対応を家族で話し合ったことがある
  • □ 家族信託や成年後見について専門家に相談したことがある
  • □ 実家の売却をいつか検討している

一つでも「いいえ」があれば、今すぐ動き出すことをおすすめします。家族信託は「親が元気なうち」しかできません。

※本記事は情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な手続きについては専門家にご相談ください。

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